「ロシアのメディア規制当局はウクライナ戦争の報道を検閲し、記者たちに指示に従うよう命じている」と国境なき記者団が報道

国境なき記者団は「ウクライナ戦争の結果、ロシア政府による取り締まりが強化され、予てより対処が困難だった多くの障害がさらに深刻化していく中、国境なき記者団(RSF)は、ロシアの独立系ジャーナリストやメディアが信頼のおけるニュースを報道するべく奮闘を続けていることを支持する」と3月5日発表した。

国境なき記者団の発表は以下の通り。

 

 

ロシア連邦通信・情報技術・マスコミ監督庁(ロスコムナゾール、Roskomnadzor)は、独立系ジャーナリストやメディア労働組合が指摘したように(ジョージ・オーウェルの小説『1984年』に登場する)「真理省」と化している。「戦争」、「攻撃」、「侵略」などの言葉は、現在メディアにおいて使用を禁じられ、「ロシアの公式な情報源」である国防省からの情報のみが発信を許されている。軍事的損失や軍の士気に関する情報は、既に10月以降機密情報に分類されており、このような内容の報道を試みれば、起訴されるか、「外国人工作員」のリストに掲載される結果が待ち受けている。

 

2月28日、ロスコムナゾールは、戦争報道を行ったとして少なくとも6つのオンラインメディア― プラハに拠点を置く米国放送局『ラジオ・フリー・ヨーロッパ/ラジオ・リバティー(RFE/RL)』が運営するオンラインTVチャンネル『Nastoyashchee Vremya』、クリミアに位置するRFE/RLの子会社『Krym Realii』、反政府系メディア『The New Times』、学生新聞『Doxa』、『インタファクス通信-ウクライナ』のロシア版、ウクライナの政府系ニュースサイト『Gordon』 ― へのアクセスをブロックした

 

RSF東欧・中央アジア支局長ジャンヌ・キャヴェリエは「ロシアでは、情報戦が本格化している。」と述べた。「戦争の犠牲の隠蔽によってプーチン大統領がロシア国民にウクライナ侵略を正当化するためには、すべてのメディアに戦時体制を敷く必要がある。しかし、かつてのソビエト連邦の機関紙『プラウダ』の時代は終わった。我々は、この非常に緊迫した状況の中で、信頼のおける報道を行っている独立系メディアを支持する。」

 

起訴

ロスコムナゾールは、ラジオ『モスクワのこだま』、人気ニュースサイト『Mediazona』、独立系テレビ局『ドシチ(Dozhd)』、調査報道紙『ノーバヤ・ガゼータ』などを含む、少なくとも10社のメディアに対して、「偽情報を拡散」した罪で訴追手続きを開始した。『ノーバヤ・ガゼータ』の著名な編集者でノーベル平和賞受賞者であるドミトリー・ムラトフ氏は、大規模な反戦運動を呼びかけるビデオを投稿し、連帯を示すために同紙の2月26日号をロシア語とウクライナ語の両言語で発行した。業界誌『ジャーナリスト』も、「戦争」という言葉を含む彼のビデオをウェブサイトに掲載したためか、後にビデオを削除したものの同様に起訴されている。

 

ロスコムナゾールは、これらのメディアが「ロシア軍の行為の結果起きたウクライナの都市に対する砲撃およびウクライナの一般市民の死に関する虚偽情報、また、進行中の作戦を攻撃、侵略、宣戦布告などと呼ぶコンテンツ」を発表した、として非難している。

 

ロスコムナゾールからの警告を受け、ウェブサイトが閉鎖されたり、最高で500万ルーブル(5万ユーロ以上)の罰金を科されたりすることを恐れたその他のメディアは、ロシア政府の意に沿わないコンテンツを削除した。シベリアの都市クラスノヤルスクを拠点とするオンラインメディア『Prospekt Mira』は、ウクライナの都市での爆発に言及した記事を削除することを余儀無くされた。

 

ソーシャルメディアも標的となっている。インターネット接続業者がTwitterへのアクセスを制限する一方で、Facebookが特定の国営・親政府系メディアにリンクされた検索結果減らすことを決定した後、ロスコムナゾールは2月25日に発表した通り、Facebookへのアクセス制限を開始した。暗号化メッセージサービス『テレグラム』の創業者であるパヴェル・ドゥーロフ氏は、多くの『テレグラム』チャンネルでフェイクニュースが無秩序に拡散されていたため、ウクライナとロシアにおける自身のプラットフォームへのアクセスを制限する予定だと述べたが、後に撤回した。

 

ジャーナリストの逮捕

戦争関連の報道をめぐっては、ジャーナリストの逮捕も起きている。2月27日、ニュースサイト『Sota Vision』のポリーナ・ウラノフスカヤ氏のほか、少なくとも3名の現地のニュースサイトの記者 - 『93.ru』のヴァレリア・ダルスカヤ氏、『Yuga.ru』のヴァレリア・キルサノバ氏とニキータ・ジリアノフ氏 - が、南西部の都市クラスノダールで反戦デモを取材中に略式逮捕された。彼らは同日夕方に釈放された

 

『RFE/RL』のロシア向けサービス『Radio Svoboda』の記者3名 - イヴァン・ヴォロニン氏、アルチョム・ラディギン氏、ニキータ・タタールスキ氏 - は、2月24日にモスクワで反戦デモを取材中に逮捕され、彼らの弁護士が介入して無罪釈放になるまで6時間にわたって警察署に留置された

 

2月26日、『ノーバヤ・ガゼータ』のジャーナリストであるイリヤ・アザール氏とイヴァン・ジーリン氏、そして『Radio Svoboda』の2名のジャーナリスト、記者のセルゲイ・グラゾフ・カシア氏とカメラマンのアンドレイ・キセレフ氏は、ウクライナ国境近くの都市、ベルゴロドでの反戦デモの取材準備中に逮捕され警察署で2時間以上にわたって留置された

 

『ノーバヤ・ガゼータ』のジャーナリスト2名は、搬送されてきた負傷者を取材しようと病院に入ったところ、警備員に立ち去るよう求められたと、同日発表した記事の中で報じた。さらに、「昨日、『ベルサット(ポーランドに拠点を置くベラルーシの亡命テレビ局)』のジャーナリストがこの病院で手荒な扱いを受け、写真をすべて削除させられた。」と報じ、「彼女は、私たちが見たよりも多くのことを目撃したと語った。」とも付け加えた。

 

ハラスメント

政府による取り締まりの多くの犠牲者たちと同様に、ジャーナリストも危険を冒して抗議行動を行なっている。検閲を批判する看板を持ち、唯一許されている抗議の形態であるスタンディングを行なって逮捕された者もいる。さらに、それ以外のジャーナリストたちにも圧力は降りかかっている。具体的には、有力日刊経済紙『コメルサント』の外信部デスクであるエレナ・チェルネンコ氏は、300名以上のジャーナリストが署名した戦争反対の公開書簡を発表したことによって、ロシア政府の公認の記者リストから排除された。

 

一方、国営メディアは戦闘状態に突入している。2月27日、テレビ局『Rossiya 1』は、国際制裁の対象にもなっているスター司会者、ウラジーミル・ソロビエフ氏のトークショーなど、政府のプロパガンダを伝える番組により多くの放送時間を与えることを決定した。2月24日の番組の中で、彼は「ロシアでは、プーチンを支持しないロシア人官僚やジャーナリストは粛清されるべきだ。」と述べていた。

 

ロシアは、2021年RSF世界報道自由度ランキングにおいて180カ国中150位だった。