「中国政府による、香港の報道の自由抑圧を食い止めよう」(国境なき記者団)

国境なき記者団(RSF)のクリストフ・ドロワール事務局長は、中国政府により香港国家安全法が施行されたことを受け、全世界の民主国家に対し、行動を起こすよう呼びかけている。同法は、ジャーナリストを訴追する手段として利用される恐れがある。

7月1日は、香港返還から23年目の節目だ。英国の植民地だった香港では現在、今後の自由を巡る深い懸念が渦巻いている。中国政府は、香港に介入し、「テロリズム」「反国家的」「国家転覆」または「内政干渉」とみなされるすべての事柄を「法的に」取り締まるため、これまでの姿勢を覆し、国家安全法を押しつけた。言い換えれば、中国共産党の利益に反するいかなる思想や行動も、訴追の対象となるということだ。

同法の施行は、香港における報道の自由にとって大きな打撃であるだけでなく、中国政府が推進する「新メディア世界秩序」の構築に向けた決定的な一歩だ。かつてアジアにおける報道の自由の砦だった香港は、世界報道の自由ランキングが初めて発表された2002年から順位を18下げ、現在は80位だ。中国は180カ国・地域中177位と、最下位付近にランクしている。

香港における報道の自由が低下している理由は、中国がじわじわと香港メディアに介入してきたことが大きい。直接的な買収や、広告主に対する圧力などの手段が取られてきた。

報道の自由の侵害は、2014年の民主化要求デモ「雨傘運動」を機に悪化している。中国寄りのグループによるナイフ切りつけ事件のほか、反政府デモに参加する人々に対する警察の暴力も頻繁に起きている。香港の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官は、控えめな発言をしつつも、報道の自由よりも中国政府の利益を優先すると明確に示した。報道の自由は香港基本法により担保されているにもかかわらず、だ。

香港の人々が抱く、民主主義と自由な公開討論が失われることに対する懸念は正当なものであり、私たちのサポートが必要だ。2003年、香港で約50万人が同じような国家安全法案に対してデモを行い、最終的に廃案へと追い込んだ。昨年7月には200万人(労働力人口の約半数)がデモに参加し、犯罪の容疑者を香港から中国本土に送還できるようにする法案を断念させた。最近の世論調査では、香港のジャーナリストの大多数(98%)が、今回の国家安全法はジャーナリストにとって不利な形で利用されると懸念している。中国本土では「国家安全保障」に関する犯罪は死刑にも相当する。中国で現在拘束されている114人のジャーナリストの大半はこの「罪」に問われている。

中国本土では、報道の自由を抑圧するため、広範でシステマティックな手段が用いられている。これまで、香港はそのような事態をなんとか回避してきたが、今後は香港にもその危険が及ぶ。香港における自由度は、中国国内で達成可能な最大レベルだ。今後はすべての人が苦しむことになってしまう。香港で報道の自由が抑圧されれば、中国のその他の地域でより高い自由度を目指すという望みは消えてしまう。

法的拘束力のある「一国二制度」の原則は、香港問題に関する中英共同宣言により担保されており、この声明は国連にも承認されている。香港は、2047年まで「高い水準の自治権」を享受できるはずだ。我々の助けが必要な今、世界が香港を見捨てれば、国際的な経済の中心地として香港に繁栄をもたらしてきた制度を脅かす。それだけでなく、中国政府は合意に基づくその他の原則も無視し、監視されることなく、権威主義的、抑圧的な活動を世界中で広げていくだろう。

香港は、守るべき象徴にとどまらない。香港の自由は、世界中の人権の未来に関わる地域だ。短期的コストにかかわらず、世界の民主主義国家は、表現の自由に関連する国際法の原則が守られるよう、力を合わせなければならない。国際的な約束や法律を守らず、他人を踏みつけるような力ずくのやり方を許しては、勝利することはできない。原則を守る側は弱く、悲劇的な結果が待ち受けていた例は歴史が知っている。その歴史を繰り返してはならない。

中国政府に、香港の報道の自由を奪わせてはならない。

クリストフ・ドロワール

国境なき記者団 事務局長