麻薬関係の殺人のほとんどは貧困層の人間。富裕層に“処刑”のメスは入っていない(JFJN現地ルポ・第3弾)

5人の子供の父親でありながら、思われる男性ジョジョの自宅。ラグナス州

 

取材・文/瀬川牧子(JFJN代表/『国境なき記者団』日本特派員)

マニラの中心部からバスで1時間ほどの距離にあるラグナス州に住むメイ・グズマン(42歳)は、か細い声でそう話した。

この州では、ドゥテルテの大統領就任後、80人以上の麻薬使用者らが自首し、現在、リハビリを受けている。

メイさんの家の近くには、麻薬常習犯と元密売人たちが住んでいる。自宅から20mほどの場所にある汚臭漂う家。窓からは、昼だというのにベッドに横たわっている40代後半ぐらいの男性の姿が見えた。頬は痩せこけ、目だけが力強くこちらを見ている。「彼は麻薬の常習犯よ」とメイがそっと教えてくれた。

「彼の名前はジョジョ。『自首して』と頼んでいるけど『僕はやってない』の一点張り。彼の顔を見て、痩せこけて、骸骨みたいでしょ。覚醒剤をやると眠れないし、食欲がなくなるからあんなふうになるのよ」

 

ジョジョには5人の子供がいる。職業は、お客さんを運ぶバイク運転手。麻薬に手を染めてから、食費が麻薬購入費へと切り替わった。

「子供たちはみんな身体が小さいの。だって栄養失調ですもの。毎日、インスタとラーメンばかり食べ続けているわ」

ジョジョの家の左隣には、家屋が解体され、基礎が剥き出しの状態になっている家がある。5年前にある家族がここに引っ越してきた。当時、両親は40代後半で長女が22歳、次男が16歳だった。引越して来てから1年ほどして、両親が麻薬密売容疑で逮捕された。

「彼らには1年間ほどまったく仕事が見つからなかった。それで最後の手段として、麻薬の密売に手を染めたの」とメイさん。

ここに引越してくる前、夫婦は飲食店で働いていた。しかし、その飲食店のオーナーが土地を転売することを決定し、住居でもあったその飲食店からの立ち退きを余儀なくされた。知らない土地に引越してきたためか、仕事を見つけることができず、結局、麻薬の密売をすることになった。

「夜になると夫婦の家に知らない顔の男性たちが集まってきて、不穏な雰囲気が流れていたわ」とメイさんは回想する。4年前、麻薬取引の顧客を装った警察官が彼らの自宅を訪れ、現場で夫婦を逮捕。麻薬密売人は無期懲役刑となる。

残された二人の子供のうち、当時16歳だった次男は精神病を患っていた。逮捕後、姉は結婚するが、次男の消息がわかっていない。

 

メイさんの家の隣りに住む女性の息子は、6年前に自宅のテラス前で射殺された。当時33歳。

「彼は麻薬使用者でもあり、密売人でもあった」

麻薬の元請けとの金銭トラブルで殺害されたのだろうとメイさんはいう。

麻薬関係の殺人のほとんどは、スラム街などに住む貧困層の人間だ。富裕層には“処刑”のメスは入っていない。

ある地元メディアがその理由を教えてくれた

「今でも エクスタシーなどの麻薬を使用している富裕層はいるよ。でも彼らは絶対に捕まらないと確信している。だって、富裕層のマンションや住宅には、民間のセキュリティが不審者の侵入を防いでいるから。それに、警察が捜査しようとしたら、富裕層地区のコミュニティから許可を受けないといといけない。そんなの面倒サロ。だからやらないのさ。あと、金持ちは逮捕した後、裁判で訴えてくる。それに比べて、スラム街は許可なしで捜査できる。それに彼らは貧しいから裁判を起こす費用もない。だから貧しい彼らばかりが狙われるんだよ」

 

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5人の子供の父親でありながら、思われる男性ジョジョの自宅。ラグナス州
5人の子供の父親でありながら、思われる男性ジョジョの自宅。ラグナス州