「沖縄の成人式」

「酩酊防止」を理由に取り押さえられる若者。那覇市の国際通りにて(撮影/ロバート・ルイボンホア)

取材・文/瀬川牧子(JFJN)

1月8日、沖縄県・那覇市では各地域の中学校などで成人式が開かれた。連帯意識を強めるためか金、赤、緑などの色で統一された羽織姿で出席している新成人のグループもいた。

式典を終えた後、同色の羽織を着た新成人グループは、沖縄の地酒「泡盛」などを片手に大騒ぎしながら、観光客向けの土産物店などが並ぶ「国際通り」を歩く。

国際通りの土産店の店員の女性(21)は、「毎年、大騒ぎするのは全成人の1%にも満たない地元のヤンキーたちです。これを“沖縄の成人式”の風景だと全国放送されるのは正直恥ずかしい」と打ち明けた。ド派手な若者らが練り歩くため、観光客の関心が彼らに集中し、成人式の日は、国際通りの商店街の売り上げが落ちるという。

この日、市内には約300人の警察官が警備にあたり、国際通りには100人以上の警察官が集まっていた。

暴動などを防ぐため新成人の乗車した車両を通りに入れないなど、例年より規制を強化。騒いでいる新成人を見つけると、とりあえず警察車両の大型バスに保護する。仲間を助けようと抵抗した後輩や他の新成人も保護される。

沖縄タイムズによると、8日、県内各地で逮捕された新成人は6名。保護は28名、補導された少年は1人だった。

警察官と新成人の衝突を撮影していたのは、フィリピンのフォトグラファーで、医師のロバート・ルイボンホア(34)さんだ。

「フィリピンには成人の日が存在しないので、20歳になった青年を祝う『成人式』は大変興味深い行事だ。暴れている若者を見て、自分が20歳だった頃を思い出したよ。彼らの“怒り” “不満”“ ”切なさ“など、僕も若い時には彼らと同じ気持ちを抱いていた」

ロバートさんは、警察官に連行される新成人らの気持ちがわかるという。

「20歳を機に彼らの多くが地元沖縄を離れ、東京などに就職する。成人式は、故郷、家族、友人とも離れていく切ない人生の一幕にも見える。フィリピンでも高校卒業後に友人らが外国に出稼ぎに行って一生会えないこともある。彼らが騒いでいるのは、これからの人生に対する不安、孤独さ、別れへの寂しさだと思う」

ロバートさんはまた、新成人らにフィリピンの現状を重ねる。

「沖縄とフィリピンは本当に似ている。気候、景色、ゆったりとした空間、文化など。沖縄の人々は素朴で心が温かい。また出稼ぎに頼らざる得ない社会的環境もそっくりだ。沖縄は日本のフィリピンなんだ。フィリピンが日本に統治され続けていたら、きっと沖縄とそっくりになっていたはずだ」

沖縄とフィリピンのつながりは深い。第二次世界大戦前は1万人以上の沖縄県出身者がフィリピン南部のダバオに住んでいた。

また、戦後間もなく、米軍基地雇用員としてフィリピンから多くの男性が移住し、70年代のベトナム戦争以降は、基地近くの歓楽街で働くエンターテイナーとしてフィリピン女性が多く日本にやってきた。

現在、沖縄県内には547人のフィリピン人が就労者している(2015年・沖縄労働局による)。県内に届け出のある外国人労働者の数は、1位が中国の660人(19.5%)、2位がネパールの561人(同16.6%)、3位がフィリピンで、全体の16.1%を占める。

今年4月、「沖縄−フィリピン」間の直行便が就航する予定だ。

那覇市の国際通りを闊歩する若者を取り締まる警察官ら
那覇市の国際通りを闊歩する若者を取り締まる警察官ら(撮影/ロバート・ルイボンホア)
「酩酊防止」を理由に抑え込まれる若者ら
「酩酊防止」を理由に抑え込まれる若者ら(撮影/ロバート・ルイボンホア)