香港の国家安全法で、世界中のジャーナリストが中国の暴力的な措置に直面する恐れ

国境なき記者団(RSF)は、世界の民主国家に対し、あらゆる努力をもって、中国政府に香港国家安全法を撤廃させるよう求めている。同法により、香港の安全保障を脅かすとみなされる報道を行えば、いかなるジャーナリストも訴追することが可能となる。罪に問われた場合、終身刑にとどまらず、中国国内で訴追されれば死刑を宣告される可能性もある。

中国政府は6月30日、国際的合意を反故にする形で、香港国家安全法を施行した。同法の下では「テロ活動」「国家分裂活動」「国家転覆活動」「外国との共謀」とみなされるあらゆる行為が、終身刑または死刑に相当する(中国で訴追された場合)。この処罰は、世界のどこを拠点としているかにかかわらず、すべてのジャーナリストに適用される。現在中国で拘束されている114人のジャーナリスト・報道の自由を守る活動家は、同様の理由で逮捕または刑罰を受けている。

国境なき記者団のセドリック・アルビアニ東アジア事務局長は「このグロテスクな法律は、いかようにも解釈できる。中国政府は、法律に基づく形で香港のジャーナリストへの嫌がらせ・処罰を行うことができる。それだけでなく、国外のニュースコメンテーターも投獄の圧力にさらされる」と述べている。アルビアニ事務局長は、民主国家に対し「中国が香港における報道の自由を抑圧し、”新世界メディア秩序”構想を実現させないよう、即座に行動を起こす」よう求めている。

この新しい法律は、成立直後に施行された。英訳同様、中国語の原文も曖昧で不明瞭な内容だ。同法は、香港を拠点に活動しているかどうかにかかわらず、香港に関する報道を行うすべてのジャーナリストに適用される(第38条)。香港で訴追された場合、ジャーナリストは終身刑の厳罰に処される。同法には、身柄の「送還」という言葉は見当たらない。しかし、安全保障に関わる犯罪に死刑が適用される中華人民共和国内で訴追が行われる余地も残されている(第55条)。特定の裁判は、メディアや市民の監視外で行われる場合もある(第41条)。

最近、風刺テレビ番組「Headliner」の脚本家らが、警察を馬鹿にしたとして、公共メディアグループ「Radio Television Hong Kong(RTHK)」から除外された。今回の法律の「包括的」な定義のもとでは、脚本家らは「国家転覆」の罪に問われていた可能性もある。フィナンシャル・タイムズのアジア・ニュースエディター・ビクター・マレットは2018年、外国特派員クラブが開催した、独立運動を支援する活動家を招いたディベートでモデレーターを務めたことで香港から追放された。こうした活動も「国家分裂」を煽っているとみなされた可能性がある。昨年デモ隊が立法会を一時的に占拠した件を報道し、暴動を煽ったとして罪に問われているジャーナリストのMa Kai-chuangとWong Ka-hoも、同法の下では「テロ活動」の罪に問われていたかもしれない。

国家安全法を運用するため、中国政府は「香港における安全保障保護室(Office for Safeguarding National Security in Hong Kong)」(第48条)の設置を検討している。メディアや海外特派員の活動を監視するのが目的だ。また、中国政府は、「安全保障保護委員会(Committee for Safeguarding National Security」(第12条)の設置も検討している。同委員会は、地方裁判所の管轄外(第14条)となり、ジャーナリストや情報提供者への圧力と監視を自由に行うことができる。

香港は、これまで報道の自由の砦だったが、世界報道の自由度ランキングが初めて発表された2002年から順位を18下げ、現在は80位だ。中国は、180ヶ国・地域中177位と最下位付近に位置している。