日本は67位!2019年「報道の自由度」ランキング(国境なき記者団)

2019 世界報道の自由度ランキング 恐怖の連鎖

 

 国境なき記者団(RSF)による2019年「世界報道の自由度ランキング」は、ジャーナリストに対する嫌悪が暴力へと発展し、恐怖を増幅させている現状を浮き彫りにした。安全とみなされている(ジャーナリストが完全に安全な環境下で取材を行うことができる)国の数は減り続けている。一方、独裁政権はメディアの取り締まりを強化している。

 

 国境なき記者団のランキングでは毎年、180の国‧地域におけるジャーナリズムの状況を評価している。今年は、恐れを引き起こす緊迫した雰囲気が生じ、安全な取材環境に悪影響を与えていることが明らかになった。多くの国で、政治家がジャーナリストに対する敵意をあらわにしており、深刻かつ頻繁な暴力行為を誘発している。そして、ジャーナリズムがこれまで経験したことのないレベルの恐怖と危険が引き起こされている。

 

 国境なき記者団のクリストフ‧ドロワール(Christophe Deloire)事務局長は「政治的議論が、私たちの目に見えない形で、または公然と、紛争にも似た雰囲気へと傾き、ジャーナリストがスケープゴートのように扱われているとすれば、民主主義は非常に危険な状態にある」と述べた。「この恐怖と脅迫の連鎖を止めることは、歴史の中で培われてきた自由を尊重するすべての善良な人々にとって、最も喫緊の課題だ」。

 

 2019年のランキングでは、ノルウェーが3年連続の1位となった。2位は、4つ順位を上げたフィンランドだった。オランダ(4位、-1)では、組織犯罪を取材していた2人の記者が、永久的に警察による保護下で暮らさなくてはならない状況に陥り、サイバーハラスメントが増加しているスウェーデン(3位)は1つ順位を下げた。アフリカでは、エチオピア(110位、+40)とガンビア(92位、+30)が、昨年から大きく改善している。

 

 独裁国家の多くが順位を下げた。例えばベネズエラ(148位、-5)では、ジャーナリストが治安部隊による逮捕や暴力の被害を受けている。ロシア(149位、-1)では、政府による逮捕、恣意的な捜査、極めて厳しい法律により、独立メディアやインターネットの規制を強めている。ランキングの下位を見てみると、ベトナム(176位)および中国(177位)はそれぞれ1つ順位を落とした。エリトリア(178位)は、隣国エチオピアとの関係正常化にもかかわらず、前回に引き続き、下から3位となった。最下位はトルクメニスタン(180位、-2)で、前回最下位の北朝鮮は1つ順位を上げ179位だった。

 

「優秀」(報道の自由度マップの白色)または「良好」(黄色)と分類されたのは、180の国‧地域のうち24%のみで、昨年の26%から低下した。ドナルド‧トランプの発言にとどまらず、より過酷な状況に陥っているアメリカ(48位)は3つ順位を落とし、同国のメディア環境は「顕著な問題あり」(オレンジ色)に分類されている。アメリカのジャーナリストがこれほど多くの殺害予告を受け、民間警備会社に保護を求めたケースは前例がない。メディアに対するヘイトが増幅する中、20186月には、米メリーランド州アナポリスの新聞社「キャピタル‧ガゼット」で男が銃を乱射し、ジャーナリスト4人とスタッフ1人が殺害された。男は最終的に事件を起こす前、ソーシャルメディアで繰り返し同新聞社への憎しみを書き込んでいた。

 

 脅迫や侮辱、攻撃は今や、多くの国のジャーナリストにとって「職業上の危機」となっている。インド(140位、-2)では、ヒンドゥー‧ナショナリズムの批判はインターネット上で「反インド的」とみなされ、ハラスメントの対象となっている。2018年には6人のジャーナリストが殺害された。ブラジル(105位、-3)の選挙戦では、ジャーナリストが、ジャイール‧ボルソナーロの支持者による身体的またはオンラインでの攻撃のターゲットとなった。

 

勇気ある調査報道記者たち

 

 敵意に満ちた状況の下で、汚職や脱税、組織犯罪の調査報道を続けるには勇気が必要だ。イタリア(43位、+3)では、内務大臣兼「同盟」党首のマッテオ‧サルヴィーニが、ジャーナリストのロベルト‧サビアーノに批判されたことから、彼に対する警察保護を取り消すことを示唆した。また、ほとんどの国において、ジャーナリストやメディアは司法によるハラスメントにさらされている。アルジェリア(141位、-5)やクロアチア(64位、+5)などがその例だ。

 

 フランスやマルタ(77位、-12)で見られるように、訴訟手続きの乱用は、資金を枯渇させることで、調査報道を行う記者たちの口を封じる手段と言える。また、投獄につながることもある。ポーランド(59位、-1)では、日刊紙「ガゼタ‧ビボルチャ」のジャーナリストたちが、疑義のある建設事業と与党代表を関連づけた報道を行ったことで、懲役刑を科されるかもしれない事態となっている。ブルガリア(11位)では、欧州連合(EU)の資金流用について数ヶ月にわたり調査していたジャーナリスト2人が逮捕された。調査報道記者たちが腐敗行為を暴くたびに、訴訟や訴追だけでなく、あらゆるハラスメントのターゲットになる恐れがある。セルビア(90位、-14)では、記者の家が放火される事件があった。マルタやスロバキア(35位、-8)、メキシコ(144位、-3)、ガーナ(27位、-4)ではジャーナリストが殺害されている。

 

 権力者にとって都合の悪いジャーナリストを迫害する暴力のレベルに、もはや限度はないようだ。昨年10月には、イスタンブールのサウジアラビア大使館で、同国のコラムニストジャマル‧カショギがおぞましい方法で殺害された。この事件は、サウジアラビア(172位、-3)の国境を超えて、ジャーナリストたちへの恐ろしいメッセージとなった。身の危険を感じた同地域のジャーナリストたちは、自己検閲を行い、書くこと自体をやめてしまう例もある。

 

良い状況とされる地域でも、これまでにない悪化

 

 南北アメリカは、報道の自由に関する制限‧違反レベルの地域スコアが世界中で最も悪化(3.6%)した地域だ。これは、アメリカ、ブラジル、ベネズエラにおける悪い状況だけが原因ではない。ニカラグア(114位)は順位を24下げ、2019年でもっとも悪化した国の一つとなった。オルテガ政権に対する抗議行動を取材しているニカラグアのジャーナリストたちは抗議者とみなされ、しばしば身体的攻撃を受けている。彼らの多くが、テロリズムの罪で投獄されるのを恐れ、国外へ逃げなければならなかった。西半球には、メディアにとって世界で最も過酷な環境の国がある。メキシコでは2018年、少なくとも10人のジャーナリストが殺害された。アンドレス‧マヌエル‧ロペス‧オブラドール大統領の就任により、権力とメディアの間の緊張はいくらか緩和された。しかし、なくならない暴力や、ジャーナリスト殺害者が司法の裁きを受けていない状況を鑑み、国境なき記者団は3月、国際刑事裁判所に捜査を依頼した。

 

 報道の自由に関する制限‧違反レベルの地域スコアでは、EUおよびバルカン半島諸国の悪化が2番目に顕著だった(1.7%)。報道の自由が最も尊重され、建前上は最も安全な地域ではあるものの、ジャーナリストたちは深刻な脅威にさらされている。マルタ、スロバキア、ブルガリア(111位)での殺害事件、セルビア‧モンテネグロ(104位、-1)におけるジャーナリストへの罵詈雑言や身体的攻撃、そしてフランス(32位、-1)のイエローベスト運動の中で起きた前例のない暴力などがその例だ。テレビ局クルーの多くは、ボディガードなしではとてもイエローベスト運動を取材することができなかった。自局のロゴマークを隠して取材したケースもあった。また、ジャーナリストは公然と汚名を着せられている。ハンガリー(87位、-14)では、オルバーン‧ヴィクトル首相が党首を務めるフィデス‧ハンガリー市民連盟が、自分たちに好意的でないメディアの取材を拒否し続けている。ポーランドでは、国営メディアがプロパガンダの道具に成り下がり、ジャーナリストへのハラスメントに使われている。

 

 中東‧北アフリカ地域は、地域スコアの悪化はそこまで顕著ではなかったものの、ジャーナリストにとって最も困難かつ危険な地域であることに変わりはない。2018年に殺害されたジャーナリストの数は若干減少したが、シリア(174位)やイエメン(168位、-1)は今も、メディア関係者にとって非常に危険な場所である。リビア(162位)で見られるように、紛争や深刻な危機のほかにも、恣意的な逮捕‧投獄などはこの地域のジャーナリストたちにとって重大かつ差し迫った脅威だ。イラン(170位、-6)は、世界で最も多くのジャーナリストを投獄している国の一つだ。サウジアラビア、エジプト(163位、-2)、バーレーン(167位、-1)といった国でも、多くのジャーナリストが、裁判を行うことなく拘束されている。そして、モロッコ(135位)でみられるように、裁判が行われた場合でも手続きは延々と続く。この暗い状況の中、チュニジア(97位、+15)では例外的に、違反の数が大幅に減っている。

 

 アフリカの2019年地域スコアは、悪化幅が最も小さかった。また、個別の国のランキングでも最も変化があった。エチオピア(110位)は、政権交代の後、拘束されていたジャーナリストを全員解放し、40も順位を上げた。ガンビア(92位、+30)も、政権交代により今年の順位を最も上げた国の一つだ。だが、政府が必ずしもジャーナリストに好意的とは限らない。タンザニア(118位、-25)では、「ブルドーザー」の異名を取るジョン‧マグフリ大統領が就任した2015年以降、メディアは前例のない攻撃を受けている。モーリタニア(94位、-22)も順位を大きく下げた。これは、ブロガーのMohamed Cheikh Ould Mohamed Mkhaitirが、外部との接触を遮断された状態で拘束されていることが大きい。彼は、背教行為で死刑判決を言い渡されたが、懲役刑に減刑された。1年半以上前に釈放されるべきだったにもかかわらず、こうした状況が続いている。国により現状が異なるアフリカ大陸では、相変わらず状況が悪い国もある。コンゴ民主共和国(154位)は、2018年も最多の違反を記録した。ソマリア(164位)も、アフリカではジャーナリストにとって最悪の国だった。

 

 東ヨーロッパ‧中央アジア地域は、国レベルでさまざまな変化が起き、地域スコアは若干改善したものの、順位は何年も前から変わらず、下から2番目にランクしている。スコアの計測に使う指標のいくつかは改善したが、悪化したものもあった。法的枠組みの指標は最も悪化した。いまだに、同地域の国の半数以上が、150位前後またはそれ以下にとどまっている。この地域における大国であるロシアとトルコは、独立系メディアの迫害を続けている。トルコは、世界で最も多くの職業ジャーナリストを拘束しており、パラダイス文書報道に絡んでジャーナリストを訴追した唯一の国でもある。硬直化したこの地域で順位を上げる国は珍しく、言及に値する。ウズベキスタン(160位、+5)は、元独裁者の故‧イスラム‧カリモフ政権下で投獄されたジャーナリスト全員を解放し、黒色(非常に危険な状況)の分類から抜け出した。アルメニア(61位、+19)では、「ベルベット革命」により、国営メディアに対する政府のコントロールが緩んだ。順位の上げ幅が大きいのは、これが非常に変動しやすい指標であることを反映している。

 

 アジア太平洋地域では、全体主義的プロパガンダ、検閲、脅迫、身体的暴力やハラスメントなど、ジャーナリズムを苦しめるあらゆる問題が起きている。地域スコアにはほとんど変化がなく、下から3番目となっている。アフガニスタン(121位)、インド、パキスタン(142位、-3)では、非常に多くのジャーナリストが殺害された。偽情報も、この地域で深刻な問題になりつつある。ミャンマーでは、ソーシャルメディアを使った世論操作の結果、反ロヒンギャのヘイトメッセージが横行している。ロヒンギャに対する虐殺を取材しようと試みたロイター通信のジャーナリスト2人に禁固7年の刑が科されたが、取るに足らない問題として片付けられた。中国が影響力を増す中で、シンガポール(151位)やカンボジア(143位、-1)にも検閲が広がっている。この困難な状況下で、マレーシア(123位)とモルディブ(98位)はそれぞれ順位を22も上げた。これは、政治的変化によって、ジャーナリストが置かれる状況が抜本的に変わる可能性があること、また、一国の政治エコシステムが、報道の自由に直接影響を与えることを示している。

 

 2020年から毎年発表されている「世界報道の自由度ランキング」では、180カ国における報道の自由度を評価しています。評価項目には、多様性、メディアの独立性、メディア環境、自己検閲、法的枠組み、透明性、ニュース・情報生産を下支えするインフラストラクチャの質があります。政府の政策は評価対象ではありません。

 

 グローバル指標および地域指標は、各国のスコアをもとに計算しています。各国のスコアは、世界中の専門家を対象とした20言語のアンケート結果および、質的分析をもとに計算しています。スコアは、報道の自由の制限や違反を評価しており、スコアが高いほど状況が悪くなります。スコアの認知度は増しており、アドボカシーのツールとして非常に有効です。

 

2019年報道の自由度ランキング:

政治的変化が、アジア太平洋地域の報道の自由に影響

 アジア太平洋地域は、さまざまな形態の偽情報に民主主義で立ち向かおうともがいている。
全体主義的プロパガンダ、検閲、脅迫、身体的暴力やサイバーハラスメントなどが横行するこの地域で、ジャーナリストが独立した取材を行うにはかなりの勇気が必要だ。
 今年のランキングでは、2カ国が順位を大きく上げ(ともに22位上昇)、政治的エコシステムがいかに報道の自由に影響するかを示したと言える。マレーシアでは、独立からの62年間で初めて、連立与党が選挙で政権の座を追われた。硬直したメディア環境に新たな空気が吹き込まれ、ジャーナリストの置かれる状況が変化したことから、マレーシアは123位に浮上した。インド洋の島国モルディブでは、選挙で選ばれた新大統領が、報道の自由を改善していくという力強い方針を示した(そして、一部は実行された)。これにより、モルディブは98位に急上昇した。

ニュースの「ブラックホール」2カ国、さらに順位低下

 一方、すでにランキングの最下位近くまで状況が悪化していた2カ国 −− 中国ベトナム −−は、さらにもう一つ順位を下げ、それぞれ177位と176位だった。習近平国家主席とグエン‧フー‧チョン共産党書記長兼国家主席による権力の独占が背景にある。中国の習近平は、「終身国家主席」になるために、20183月に憲法を改正。ベトナムのグエン‧フー‧チョンは、現在共産党と国の両方のトップである。両国では、支配層エリートが国営メディアにおけるあらゆる議論を抑圧し、反対意見を届けようとする市民記者を容赦なく取り締まっている。ベトナムでは、約30人のプロフェッショナル及びアマチュアジャーナリストが、中国ではその約2倍が拘束されている。
 一般市民を常時監視するハイテク情報サーベイランス及び、情報操作に基づく中国の反民主主義モデルは、いっそう憂慮すべき状況にある。現在中国政府は、このモデルを世界的に導入すべく推進しているからだ。中国は、国内で外国人記者の取材を妨害するだけでなく、自らの影響化における「新たな世界メディア秩序」を構築しようとしている。これは、国境なき記者団の中国に関する最新レポートでも示した通りである。
 ラオスも順位を一つ下げ、171位となった。何より、20187月に起きた大規模なダムの決壊事故の際、ジャーナリストらの取材を妨げたことが大きな理由だ。これらの一党独裁国家は、彼らの「兄弟」である北朝鮮にいや応なく順位を近づけている。北朝鮮は、最高指導者の金正恩とトランプ米大統領による首脳会談の際、建前上はメディアに対しオープンであったことから、なんとか179位へと順位を一つ上げた。だがこれは取るに足らない変化である。

検閲と自己検閲 の増加

 メディアの独立性は脅かされている一方、ニュースを完全にコントロールする中国式システムは、自己検閲を規範として確立させたシンガポール151位)、ブルネイ152位、-1)、タイ136位)などの反民主主義政権にとっての手本となっている。同様に、政府がすべての独立系メディアを排除したカンボジア143位)や、主要な既存メディアが中国政府の意向にたやすく従うようになった香港73位)でも検閲が定着している。
 当局に対して編集権の独立が担保されていないパプアニューギニア38位)やトンガ45位)でも、2018年に自己検閲が増加した。パキスタン142位、-3)では、20187月の総選挙を前に、軍がメディアに対するハラスメントを行った。その結果、パキスタンの軍事独裁政権下における最悪の時期に匹敵するほど検閲が増加した。

命を脅かす現場での取材

 パキスタンでは、取材環境も非常に危険で、記者たちは危うい状況にさらされている。2018年には、少なくとも3人が職務に関連して死亡した。アフガニスタン121位、-3)の治安情勢はさらに深刻だ。政府の努力にもかかわらず、取材中に16人のメディア関係者が死亡、明らかにメディアを狙った2件の自爆テロにより9人が死亡した。アフガニスタンで現場取材を行うには、以前にも増して勇気が必要である。アフガニスタンの状況に比べれば衝撃的ではないものの、バングラデシュ150位)の状況も深刻だ。抗議活動や選挙を取材する記者たちが、前例のない暴力のターゲットとなった。
 ジャーナリストに対する身体的暴力が助長されている背景には、例えばスリランカ126位)のように、しばしば加害者が全く責任を問われないケースがいまだに存在するという事実がある。インド140位、-2)でも2018年、少なくとも6人のジャーナリストが職務中に死亡した。この悲劇は、治安部隊組織的犯罪政治アクティビストなど、あらゆる方面からの暴力が増加する中で起きた。

サイバーハラスメントと偽情報

 インドのジャーナリストたちは、現場だけでなくインターネット上でも攻撃にさらされている。ナレンドラ‧モディ首相のヒンドゥー‧ナショナリズム思想を、インターネット上で恐れずに批判する人々はみな「反インド的」な最低の人間であり、追放されるべきだというレッテルを貼られる。その結果、ジャーナリストたちは、殺害予告やレイプの脅しといった、恐ろしいサイバーハラスメントを受けている(特に、ネットで荒らし行為を行う「トロール」部隊は、女性ジャーナリストへの嫌がらせを好む)。同様の現象はフィリピン134位、-1)でも起きている。フィリピンでは、ロドリゴ‧ドゥテルテ大統領の政権による独立メディアへの攻撃に加え、組織的なサイバー攻撃が行われている。最も象徴的な事例は、間違いなく、ニュースサイト「Rappler」及びその編集者であるマリア‧レッサ氏のケースだろう。レッサ氏は、何度も繰り返されるオンラインハラスメントや、さまざまな政府機関により主導された一連の訴追のターゲットとなっている。
 ミャンマー138位、-1)におけるソーシャルメディア利用も憂慮すべきだ。ミャンマーでは、偽情報やロヒンギャの人々に対する過激なヘイトメッセージがフェイスブック上で拡散し、政府に利益をもたらしている。ロヒンギャの虐殺事件を取材しようとしたロイター通信のワ‧ロン記者とチョー‧ソウ‧ウー記者が、20189月に禁錮7年の有罪判決を言い渡された際、アウン‧サン‧スー‧チー氏率いる政府は沈黙を貫いた

打ちのめされる民主主義

 押し寄せる偽情報の波は、アジア太平洋地域全体で民主主義を脅かし、報道の自由も損っている。民主主義国家は、こうした状況の悪化に対抗することが難しくなっており、多くの国が報道の自由度ランキングで順位を上げることができずにいる。例えばネパール106位)やサモア22位)のように、ソーシャルメディア規制を理由に、調査報道を妨げる抑圧的な法律を導入している国もある。
 報道の自由をさらに育むための構造改革が行われていないことも、韓国41位)やインドネシア124位)といった国が順位を上げられない理由だ。メディア環境があまりに二極化すれば、独立したジャーナリズムの担保は極めて難しくなる。台湾42位)やモンゴル70位)などがその例だ。

多様性の危機

 最後に、日本67位)やオーストラリア21位、-2)で見られるように、メディア所有権の集中やビジネス利害といった課題により、メディアの多様性保護はますます難しくなっている。ニュージーランド71位、+1)でも同じような現象が起きているが、規制により、メディアの行き過ぎた集中を防ぐことができた。その結果、ニュージーランドは順位を一つ上げ、制度的保障が利益をもたらすことを示唆した。
 憂慮すべき状況ではあるが、ささやかな勝利もあった。フィジー52位、+5)、東ティモール84位、+11)、ブータン80位、+14)のメディアは、2018年の総選挙で公平な報道を行った。まだ民主主義が始まったばかりで構築の過程ではあるが、メディアとしての役割を果たした。この3カ国で見られた前進は、ハラスメントや報復の恐れなしにジャーナリズムが自由に機能することは、民主的な社会の発展にとって重要だということを示している。

韓国:過去10年間の悪い状況から大きく改善

 過去10年間で韓国は、国境なき記者団の世界報道自由度ランキングにおける順位を30以上落とした。人権活動家であり、元政治犯でもある文在寅の大統領就任は、この10年の暗い状況に新たな空気を吹き込んだ。韓国の報道機関は、2014-2016年に朴槿恵大統領との戦いで歯を食いしばった。朴が汚職の罪で弾劾、罷免されたことで、ついに勝利した。公共放送局のMBCKBSYTNでは、政府の息のかかった上層部に対してジャーナリストらが反発していたが、文政権は10年に及ぶこの紛争をなんとか終結させた。しかしながら、構造的問題はまだ残っている。公共放送の独立性を担保するためには、幹部指名制度の改正が必要だ。名誉毀損は今も懲役7年に相当する罪であり、非犯罪化すべきだ。また韓国は、特に北朝鮮に関わる機密情報の流布に対し、国家安全保障に基づいて厳罰を与える法律も廃止すべきである。

台湾:抑圧されるメディアの独立性

 台湾における政治介入はまれであり、許容度も低い。しかしジャーナリストたちは、センセーショナリズムと利益追及によって非常に分断されたメディア環境に苦しめられている。蔡英文総統は、台湾における報道の自由を引き続き発展させていきたいと述べた。しかし、ジャーナリストの編集権の独立を高め、公開討論の質を向上させるようメディアを後押しする施策はほとんど講じられていない。中国は、しばしば中国本土にビジネス上の関心がある台湾のメディア所有者に圧力をかけ、こ弱みに付け込んでいる。また、中国政府はオンラインの偽情報キャンペーンを指揮しているとの疑義もある。こうした脅威は、敵対的とみなされる中国人ジャーナリストへのビザ発給拒否など、台湾による報復措置につながる恐れもある。

日本:慣習とビジネス上の利害が足かせに

 世界第3位の経済大国日本は、議会制君主制であり、おおむねメディアの多様性を尊重している。しかし、古い慣習とビジネス上の利害が足かせとなり、ジャーナリストが民主主義における監視役をまっとうするのは難しい状況だ。安倍晋三首相が2012年に再選を果たして以降、メディア不信の雰囲気があるとジャーナリストたちは訴えている。記者クラブ制度の下では、フリーランスや外国人記者への差別が続いている。SNSでは、政府に批判的であったり、福島第1原発事故や沖縄の米軍基地など「非愛国的」な話題を取材したりするジャーナリストが、国家主義者グループによる攻撃を受けている。政府は、内部告発者やジャーナリスト、ブロガーなどが「不法に」入手した情報を流した場合、最長懲役10年に科される「特定秘密保護法」に関する議論を拒否し続けている。

モンゴル:名誉毀損訴訟と自己検閲

 モンゴルにおける名誉毀損訴訟の半数以上は、ジャーナリストや報道機関に対するものであり、彼らは自己検閲を迫られている。2017年の大統領選を前に名誉毀損の厳罰化を進める計画に抗議するため、モンゴルのテレビ局は2017426日、通常番組の代わりに真っ黒な画面を放映した。概して、メディアを取り巻く環境は近年改善している。これには、国営メディアが政府の御用報道機関から公共サービスへと転換したことが大きく影響している。しかし、メディア所有権は非常に集中しており、大半のメディアは政党とつながりがある。そのため、独立系メディアの参入が阻まれている。国営か民間かに関わらず、メディアは政治家の圧力を受けている。政府の透明性の欠如や不十分なメディア法により、「ウォッチ·ドッグ(権力の監視)」機関としての機能は限られている。

香港:侵食される報道の自由

 香港は、2047年まで特別行政区としての独立した地位が保たれることになっているが、中国の悪影響を受けて報道の自由度は低下している。最も顕著な最近の出来事は、英フィナンシャル‧タイムズのアジアニュース編集者‧ビクター‧マレット氏の追放だ。香港外国記者会(FCCHK)の副会長も務めていたマレット氏は、中国政府の意に沿わないイベントを主催した。香港のメディア所有者の半数以上(その大半が中国本土においてビジネス利害がある)は、全国人民代表大会や中国人民政治協商会議など、本土の政治団体のメンバーでもある。中国共産党の香港連絡事務所は、大公報(Ta Kung Pao)と文匯報(Wen Wei Po)の2紙を含む複数の報道機関を(一部または完全に)管理している。しかしながら、Citizen News The Initium Hong Kong Free PressinMediaなど、一部の独立系オンラインメディアが主導する抵抗の動きもある。こうしたメディアは、クラウドファンディングで資金を調達しており、読者数は増加している。

中国:さらに強まる規制

 習近平国家主席は、新テクノロジーの大規模な活用により、ニュース‧情報の規制および市民のオンライン監視に基づく社会モデルを導入することに成功した。習国家主席はまた、中国の影響化で「新たなグローバルメディア秩序」を推進し、この抑圧的なモデルを輸出しようとしている。中国の国営および民間メディアは、共産党の厳重な管理下にある。一方、中国で取材活動を試みる外国人記者たちも、さらなる障害に直面している。現在、65人を超すジャーナリストやブロガーが、命を脅かされるような状況下で拘束されている。ノーベル平和賞や国境なき記者団の「報道の自由賞」を受賞した劉暁波氏、体制を批判してきたブロガーの楊同彦氏は、拘束中にがんの治療を受けられず、いずれも2017年に死亡した。インターネット規制がさらに強まる中、市民は、ソーシャルメディアやメッセージ‧アプリに投稿したニュースへのコメント、さらにはコンテンツをシェアしただけでも投獄される可能性がある。

北朝鮮:無知の状態に置かれたまま

 2012年から続く金正恩体制の下、北朝鮮の独裁政権は、市民に何の情報も与えずにいる。スマートフォンを含む携帯電話が広く普及している一方、政権は、技術的手段を用いて、人々のコミュニケーションや、国内イントラネットを介して送信されるファイルをほぼ完全に管理している。北朝鮮の人々は今も、外国拠点のメディアが制作したコンテンツを視聴すると、強制収容所に送られる可能性がある。朝鮮中央通信(KCNA)は、国内のその他メディアにとって、唯一許可されたオフィシャルなニュースソースだ。建前上、当局は海外メディアに対してより柔軟な態度を取っており、公式イベントの取材を許可される外国人記者の数も増えている。2012年のAP通信に続き、20169月には、KCNAとのパートナーシップの下でAFP通信が支局を開設した。実際のところ政権は、海外メディアが入手できる情報を注意深く管理している。