フィリピン麻薬犯罪者殺害現場で聞いた市民たちの生の声(JFJN現地ルポ・第1弾)

麻薬常習者の捜査をするフィリピン・マニラの警察官

取材・文/瀬川牧子(JFJN代表/『国境なき記者団』日本特派員)

 フィリンピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領が推進する「麻薬撲滅戦争」。「超法規的措置」によって、これまでに約6000人が殺害された。国連をはじめとする国際社会から批判を受けているにもかかわらず、ドゥテルテ大統領の支持率は91%と高い。麻薬撲滅戦争の最前線、マニラ市内の住人たちに話を聞いた。

警察官のポズ・アントニオさんが語る。

「ドゥテルテ大統領就任後は勤務時間が長くなった。今は朝の7時から夜中まで。残業手当は出ない。来年には予算がつくらしいけど、家族と過ごす時間がなくなった。休日も週末も関係なく、毎日仕事ばかり」

ボズさんとは、日本のゴールデンウィークにあたる日に麻薬常習犯5体の射殺現場で出会った。時刻は深夜0時27分。場所はマニラ市郊外のマンダルヨン地区だ。

「メディアは警察官が麻薬犯を殺したと非難するけど、彼らは捜査や逮捕の現場を理解していない。相手が歯向かってきたらこちらの命がない。私が死ぬか、相手が死ぬかだ。だから銃の引き金を引くのは当然だ」(ポズさん)

ボズさんの横では、射殺された男性の遺族の女性が大声で泣き叫んでいた。

「私だって本当は殺したくはないよ」

泣き叫ぶ遺族から少し距離を取りながら、ボズさんはそう話してくれた。

 

住民が寝静まる午後10時から麻薬取締を目的とする警察の集団が活動を始める。終わるのは翌朝4時だ。

地元フォトグラファーのリヌス・エスカンドール(37)さんが話す。

「マニラ市警察本部管轄地区では、麻薬関連犯の遺体が一晩で少なくとも3体は出る。しかし、これはあくまでも公式に発表されている数。本当はもっと多いはずだ」

この5カ月間で週3回以上は殺人現場に足を運び、これまで8万枚以上の麻薬戦争関連の写真をカメラに収めてきた。

「“処刑”には3種類ある。ひとつは“ストリート殺人”。バイクに乗って麻薬使用者や密売人を射殺する方法。2つめは、“野蛮な死刑”。これは自警団による殺害で、体に銃弾を何発も打ち込み、死体をビニール袋でグルグル巻きにする。そして『俺は麻薬密売人だ。俺のようになるなよ (I am a drug pusher! Do not follow me!)』といったメッセージカードとともに道端に捨てられる。3つめが“警察の正統防衛”。麻薬使用や売買の現場を取り押さえようとした警官が、自己防衛の手段として犯人を射殺する」(リヌスさん)

“野蛮な死刑”は、麻薬取引のシンジケート同士の復讐や口封じの場合もある。また最近は、自警団の殺害が少なくなり、警察による自己防衛が主流になっているという。

「僕は麻薬犯が射殺された現場を撮影しているけど、遺族以外に彼らの死を悲しむ住民はいない。むしろ喜んでいる。麻薬密売人がいなくなって自分たちの家族が助かったって。でも、フィリピン国内のメディアは反ドゥトルテ勢力に買収されているから、ドゥテルテに批判的な偏向報道ばかりする。メディアのスポンサーが反ドゥトルテ派だからね。射殺の現場で国内メディアが強調するのは、泣き崩れる麻薬犯の遺族だけ。遺族の周囲の住民らの安堵の顔や大統領支持派の声は拾わないんだ。国民の80%以上がドゥトルテを支持しているのに、メディアだけが大統領反対なんておかしな話だ」

 

マラボン市のスラム街では、自宅でメタンフェタミン(シャブ)を使用しパーティをしていた4人が殺害された。驚いたことに住民たちで泣いている人はいなかった。

15歳の少年はカタコトの日本語で「彼らはヤクザ。悪い。殺されて当然」と記者に話かけてきた。現場には100人以上が集まっている。なかには笑っている人もいた。

ハロウィンの日の夜、0時45分頃にはマニラ市内のスラム街で5人の死体を目撃した。殺された26歳の男性の妹と母親が声をあげて泣きじゃくっていた。男性の体には5発の銃弾が打ち込まれていた。

“処刑”される人々の多くは貧困階級の労働者らだ。場所はスラム街が多い。1日15時間働いて日給は1000円以下。彼らが麻薬を使う理由はふたつ。ひとつは、ハードな肉体労働と長時間労働に耐えるために眠らずに働ける「メタファミン」が欠かせないからだ。2つめは食欲が抑えられるから。空腹をしのぐために摂取するという。

 

自宅前で義理の弟のクリストファー(33)が射殺されたメイ・バハグさん(42)が語る。

「警察による殺害なら弾丸は一発だけ。警察は銃の使い方分かっているから一発で仕留めるの。でも、自警団もしくは恨みを持っていた人の場合は、恐怖のあまり何発も撃って殺害する」。

クリストファーさんの体には5発の弾丸が打ち込まれていた。

「ドゥトルテ大統領就任以降、クリストファーは薬をやめたのよ。なのになぜ殺されたなければならないの?」

クリストファーさんの殺害は、警察なのか個人的な報復なのか答えは出ていない。

メイさんが続ける。

「ドゥトルテ大統領の麻薬撲滅キャンペーンは支持するわ。だって麻薬がすべての犯罪の根源なんですもの。家族を破壊し、レイプ、殺人、窃盗など引き起こすの。でも、ドゥトルテ大統領が就任する前、誰が麻薬王だったか知っている? 警察官よ。警察官が証拠隠滅のために、これまで警察のために麻薬売買人として働いていた協力者を殺害することもあるの」

メイさんは静かな声で警察に対する不信感をあらわにした。そして静かな怒りが伝わってきた。

 

「私の兄(50)は麻薬常習犯だから、いつ殺されてもおかしくはない。それは理解できる。でも、非常に複雑な気持ちよ」

キャサリーン・ラビニ(仮名・40)さんは、家族が関係している麻薬問題をそう打ち明けてくれた。

彼女は政府機関で働く役人で、海外メディアのエージェントとしての仕事もしている。そのため、警察や自警団による殺害の現場に20回以上、足を運んでいる。出身地区はマニラ市のサン・ポーロ地区。

「この近所には働いていない男が多いの。失業率は40%ぐらいかな。私の家族も含め、近所には10人以上の麻薬常習犯や麻薬密売人がいるわよ」(ラビニ氏)

18歳の時に友だちの影響で麻薬を始めた兄。10歳の長女と7歳の息子がいる父親でもある。以前は、役場で仕事をしていたが、現在は無職で妻の収入に頼っている。ドゥテルテ政権になっても麻薬使用を止めていない。

「兄には何度も麻薬やめるように言ったの。自首するようにも勧めたわ。兄が殺されたら悲しいけど、もう仕方ない」(キャサリーンさん)

キャサリーンは麻薬戦争以前に、従兄弟を麻薬で亡くしている。

「6年前だった。従兄弟のノエルが、私の近所のアパートの12階から飛び降りて自殺をしたの。昼間だった。午前中、彼は自分の部屋でカラオケをしていた。メタンフェタミンをやっていたのね。でもその数時間後、彼の死体が発見された。警察は12階から飛び降りたと言ったけど、彼の履いていたサンダルは14階で見つかっている。変な話でしょ」

従兄弟のノエルは当時33歳。独身で、歌手であり料理人でもあった。

「ノエルの死が、私の身近にいる人たちの“見本”になればと願ったわ。みんなが麻薬の常習を止めてくれるようにと必死に祈った。でもノエルの死は何の力にもならなかった」

キャサリーンは涙を見せずに、淡々と話した。

「ノエルの死も住民を改心に導けなかった。だから、ドゥテルテの“超法規的殺人司令”は仕方ない。死刑だけが麻薬中毒者をやめさせる最終的処置なんだから」

複雑な思いを抱きながら、キャサリーンはドゥテルテを支持している。選挙中は、ボランティアとしてドゥトルテの似顔絵が入ったうちわTシャツを配布するなど彼を熱心に応援していた。

フィリピンでは多種のドラッグが出回っている。経済的に余裕のある人たちに人気なのは「エクスタシー」だ。両親が海外で仕事をしている富裕層の子供たちは、親のいない間に「エクスタシー」などの高価な麻薬に手を染めることも少なくない。一方、下層階級は、「メタンフェタミン」「マリファナ」が常用されている。

地元のジャーナリストA氏は、「メタンフェタミンは貧乏人の象徴品で、“貧乏男のコカイン”と呼ばれている」と教えてくれた。

以前、メタンフェタミンは1g3000ペソ(日本円で7000円程度)で取引されていた。それが、2015年は1g500ペソ(日本円で1200円程度)で売買されていたという。

「近はもっと安くなっていて、100〜150ペソぐらい。昔、麻薬は都市でしか入手できなかったけど、最近は地方でも手に入るようになったわ」(キャサリーン

さん)

 

タクシー運転手のエド・ドミンゴ氏が語る。

「俺の住んでいるケソン市カンプラメ地区では、毎晩、麻薬密売人らが殺されるけど、まったく悲しくはない。ドゥトルテ大統領のやり方は大賛成さ。麻薬がどれだけ犯罪の原因になっているか。麻薬使用者はクスリが欲しいあまりに、50ペソ(約120円)のスリッパを万引きして転売するんだぜ。

俺は選挙期間中、ドゥトルテをずっと応援していた。俺の友人がダバオ出身のビジネスマンで、ドゥトルテのことをよく知っていたんだ。彼はこう言ったよ。『ダバオで、人々を躾けられるのはドゥトルテしかいない!』って。ダバオ市長時代、ドゥテルテは外国人に対しても厳しかった。夜、レストランの外で喫煙している外国人がいたんだ。店員が『喫煙はお控えください!』と言ってもきかなかった。するとドゥトルテがやってきて『この場でタバコを食え!』と言って、外国人に本当にタバコを食べさせたのさ。その様子はYou Tubeにもアップされているよ。俺たちの間ではドゥトルテは大人気なのさ。フィリピンにはドゥトルテのように強い大統領が必要なんだよ!」

 

マニラ郊外ラグナ州ランダヤン地区の区長コラソン・アミール(60)さんは言う。

「ドゥトルテ大統領には本当に感謝している。私の住んでいる地区では麻薬常習者による犯罪がとても多かった。2015年は女性が麻薬常習者にレイプされて殺されるという事件が起きたけど、彼の就任後、事件がなくなった。夜でも女性が安心して私の地区を歩けるようになったし、街が平和になってうれしい。

私の地区には3100人が住んでいるけど、80人の麻薬常習車が自首したわ。でも、いまだに密売を続ける住民がいるの。この国は50%の国民が麻薬に汚染されている。この間は、2歳の女児が麻薬中毒者らに集団レイプされ、殺害されたことがニュースになってたわ。だから警察と協力して麻薬常習者や密売人のリストを作成して、住民による「犯罪捜査班(Investigation Office)」を立ち上げて、麻薬撲滅に勤めているの」

 

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麻薬常習者の操作をするフィリピン・マニラの警察官
麻薬常習者の捜査をするフィリピン・マニラの警察官

 

 

 

 

 

 

麻薬犯ら3000人以上が収監されているケソン市刑務所
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